NU3MT

November 09, 2026



気づけば前回のブログ更新はちょうど2年前,ずいぶんと久しぶりの更新になってしまいましたが,このことについて,これといって湧いてくる感情もなく,湧いてこないものですから抱くこともできません。

NU3MT 出場までの道のり

そもそも NU3MT とは何ぞや?ということですが,これは「自身の研究内容を,専門ではない人に向けて,3分間でいかに分かり易く伝えられるかを競う大会」です。Nagoya University Three Minute Thesis の略でございまして,クイーンズランド大学が2008年に始めた 3MT の,名古屋大学版です。

NU3MT は今回で第6回目,毎年開催されていますが,出場者はその年に「名古屋大学学術奨励賞」なる賞を受賞した博士後期学生たちです。毎年,10人ほどが受賞し出場します。 次に自然に続く問いとして,その名古屋大学学術奨励賞という賞はなんなんだ?が挙げられますが,その調子で芋づる式に質問を出していくと,最後にはきっと世界のはじまりを問うことになるので,そうなる前に詳しくはこちらをご覧ください。簡単に言うと,名古屋大学の博士後期学生から10名程度の受賞者が選ばれる賞です。

学術奨励賞と NU3MT の大きな違いは,審査員が誰であるかという点です。学術奨励賞は名古屋大学の教員が審査員となります(少なくとも私はそうだと思っています)。一方,NU3MT は誰でも審査員になることができます。オンラインで生配信されるこの大会では,配信の視聴者が審査員となって出場者に投票し,その票数でグランプリが選ばれるのです。視聴者の中にはもちろん教員の方々も含まれるかもしれませんが,多くは学生や一般の方々と推測されます。大会の主旨に「専門ではない人に向けて」という側面があるのはこういうことです。

プレゼン?研究発表?

私は普段,分かり易い建物・都市とはどんなものか?ばかりを考えていますが,今回の機会は,分かり易いプレゼンとはどんなものか?を改めて考えるきっかけになりました。分かり易いプレゼンといってすぐに頭に浮かぶのは,やはりスティーブジョブズでしょうか。初めて接した Apple 製品は,家族の持っていた iPod touch 第3世代でしたが,自分の持ち物としては iPhone 5 が初めてという具合の私です。当時は既に YouTube アプリがデフォルトインストールされなくなっていたような気がします。懐かしいですね。YouTube で何を見ていたかといえば,Apple 大好きおじさんこと瀬戸弘司チャンネルの動画でした。先日も iPhone Duo を開封していました。

さてさておきおき,Apple 製品に興味を持つにつれ,私は自然とスティーブジョブズが登壇する Apple のキーノートも YouTube で見るようになりました。初代 iPhone の発表での伏線回収や,MacBook Air のデモにてペラッペラの茶封筒からおもむろに本体を取り出す場面などは色々な場所で言及されますし,個人的な視聴体験としてもかなり印象に残っています。「プレゼン」というものに触れたことのなかった私にとって,思えば Apple のイベントが初めてのプレゼンだったかもしれませんし,中高生の頃,日本時間では深夜に配信される Apple のイベントを毎回目覚ましをかけて見ていた(いやあ,本当に懐かしい)ことを踏まえると,私の知っているプレゼンの "すべて" が Apple のイベントだったかもしれません。そう考えると私は,"スクリーンでスライドを見せながら,その前で何かを話すという構図" そのものをプレゼンの定義のようなものとして理解し,それが "きれいで,分かり易いこと" がとっても良いことで,プレゼンってのはいつもそうだ,と考えていたような気がします。

しかし大学に進学し,ゼミや学会などの機会で研究発表を度々行うようになると,このある種の偏ったプレゼン観が崩れ始めることになります。研究発表も確かにプレゼンの一種であるという風に今でも私は解釈していますし,プレゼンと同じように何かをアピールする機会でもありますが,それと同時に,科学的な議論ができるように理論的な厳密性をもって詳しい情報を過不足なく(特に不足なく)伝えることを求められる機会でもあります。何が起こるかというと,Apple のイベントのようなスライドの情報密度ではスライドが成立しなくなってしまうのです。どうしたって文字情報は増やさざるを得ませんし,図にしたって相応の情報量が乗ります。削ぎ落しが効くラインが全然違ってくるのです。そして,だんだんと私のスライドは分かりにくくなっていきました(もともと分かり易いものを作っていたかはさておいて)。

スライドを作る度色々と試行錯誤をしていますが,未だにプレゼンとしての明瞭さ・分かり易さと研究発表としての実直さ・きめ細かさを両立する流儀というものは身についておりません。代わりといっては何ですが,最近はなめらかできめ細かいクレマを浮かべたエスプレッソが作れるようになってきました。いささかラクターゼを欠いた体質のため,ラテアートには挑戦していません。アーモンドミルクなんかでもできるんでしょうか,それならやってみたいですが。

NU3MT 出場にあたって普段の研究発表に向けた準備の時とは違った意識を向けたのが,スライド全体の情報量でした。大会の主旨はあくまで「分かり易さ」でしたし,私も専門外の話を時々聞いたりしますが,詳しい内容が始まるともう全くついていけなくなってしまうので,そういった経験を思い出して,どのくらい削ったら分かり易いんだろうか?と色々考えました。正解だったかどうかは分かりませんが,数字や細かいグラフは一つも出さないことにしました。また実験のデモ動画や文字情報と組み合わせたピクトグラムを使うなど,視覚的にうったえる仕掛けもいろいろと配置してみました。できあがったスライドは,研究発表の場では絶対に使えないような情報密度でしたが,それでも視覚的には明瞭なものに仕上がったなあと感じたことを覚えています。普段の作業とはかなり違った注意を払う作業でしたが,研究発表のスライド作成にフィードバックできることもいろいろありましたから,私自身にとって非常にいい経験になったように思います。

余談ですが,NU3MT の数日前から隣の部屋でまさかのリノベーション工事が始まってしまい,建物というカテゴリの物からは一度も聞いたことが無いような音が大音量で放たれていたのは全く想定外でした。自宅のインターネットの通信速度が大学キャンパスよりも早いので,動画素材を使うスライドという事もあってできれば自宅から登壇したいと考えていたのですが,万一当日,NU3MT の時間帯も工事をしていたらどうしようかと,色々策を練っていました。結局のところ当日は早くに工事が終わり,静寂極まる中で登壇ができて良かったです。

NU3MT を終えて

静寂に包まれた自室でひとり,姿の見えない聴衆の方々を画面の向こうに感じながらの登壇はかなり緊張しました。当日ご視聴いただいた皆様,そしてご投票くださった皆様,お忙しいところ本当にありがとうございました。また,応援動画の作成・出演にあたってお世話になった皆様にも,改めてお礼申し上げます。

NU3MT はアーカイブ配信もされているようですので,良ければご覧ください: こちら。

さてさんざん気ままに文を書いてしまいましたが,スライド同様今後はもっと分かり易い文章を心掛けることにしましょう。

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七原 宇紀 (Nanahara Takanori)
名古屋で博士学生してます。公式サイトです。

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